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女装しているとナンパされる?




 ナンパ。 男性であれば、それは「する」側にまわることがほとんどでしょう。でも、女装して女性のポジションとなったとき、今度は「ナンパされる」側になる体験をするかもしれません。
 ちょっとここで、女装者が「ナンパされる」ことについて解説しておきましょう。
 多くのケースになるかもしれませんが、ナンパしてくる男性が、当該者を女装者だとわかっていて声をかけてくるケースがあります。そんなことってあるの?と訝しがらずに! 女装した人を好きな、燃える男性も一定割合でいるのです。そう、あなたが女装することを選択したように、女装した人を好む男性もいるのです。まちがわないで下さい。そういう男性はゲイ(男性同性愛者)ではないことがほとんどです。人は多様なあり方がありますから、ゲイの男性で女装者を好きだという人がいないとは断言できませんが、そうなると、同性愛者という定義が怪しくなってきます。男性としての「男」が好きなのがゲイということであって、だいたいは、女装者にナンパしてくることはないと考えてもらっていいでしょう。ではどういう男性か。女性を好きなのだけど、疑似女性である女装者も好きになるというケースと、女装者だからゆえに燃えるという人といると考えられます。
 ケースとしては少ないかもしれませんが、次のようなこともあります。いや、とくに、海外旅行の場合だと、こういったケースもけっこうあるかもしれません。
 それは、女装者と認識してではなく、あなたを女性と思って声をかけてくるケースです。ヨーロッパに行くと、男性といっても、日本人は身長が比較的低いため、ヨーロッパの女性と同じぐらいの身長になることは多々あります。それに、東洋系男性の顔つきは、ヨーロッパの基準でみると「女性的」である人も多いのではないでしようか。・・・さて、問題はこういうケースでナンパされた場合、どうすればいいのかということ。私の体験談を記します。

 イタリアやギリシャなど、南欧の男性は女性によく声をかける、ということを聞いたことはありませんか。開放的な気候のせいなのか、南欧人のDNAのせいなのか、歩いているとよくナンパされました。たぶん、私のことを女性だと思ってナンパしてきていると思います。「キミは男なんでしょ」みたいな言葉は一切ありませんでしたから。
 特筆すべきイタリア男性のナンパは、勤務中でもナンパしてくるということ。日本じゃちょっと考えられませんよね。
 ナポリから1時間ほどで行くことができるポンペイの遺跡。その遺跡をまわっていたときのことです。ポンペイ遺跡係員のネームプレートをつけた男性が、私に話しかけてきました。もっとも、「お茶しませんか」みたいな声かけではありません。私にずっとつきそい、遺跡をあちらこちらと連れて回って説明してくれるのです。もちろんイタリア語ではありません。外国人がイタリア語を知っているとはかぎりませんから。英語での説明です。この方も英語を母国語としているわけではなさそうで、流暢な英語ではありません。片言の英語といったらよいのでしょうか。だから逆に、私にもなんとなくわかりました。ただ、劇場を「シアター」と紹介するのではなく「テアトル」といわれたときには、初めはなんのことかわかりませんでした。写真のように、一緒にツーショットしたりして、30分は歩いたでしょうか。
 写真をみてください。私の胸が彼の肩に触れています。いえいえ、わざとやったんではないですよ。あとで写真をみて気づいたのです。ひょっとたら、こんなことが彼を刺激したのかもしれませんね。「東洋の美女(笑)」がこんなに接近しているわけですから、彼は、勤務中という理性を失ったのかもしれません。私としては、案内し説明してくれたお礼を言って別れるつもりだったのですが、このあと、彼は、「こちらに行こう」「ちょっとベンチで休もう」などと口説いてきました。最初はそれが口説きだとは思いませんでした。だって勤務中の公務員(たぶん)なんですもの。
 ところが、ベンチに座るや、彼の手が私の太股にのびてきます。えっ!!私は硬直です。そうして、手は胸に。
「いやっ」「やーーん」「だめえ」
なんと言ったかはよく覚えていませんが、たぶん、日本でそんなシチュエイションになったときの言葉を発していたのでしょう。公務員(たぶん)の男性は、勤務中ということは忘れたかのように私に夢中。日本語での会話ではないので判別できないところも多々あったのですが、きれいだとか、すてきだとか、とにかく口説き文句をかけては触ろうとしてきました。空はまだ明るいものの、ポンペイの遺跡は広すぎることもあって、彼が連れてきたエリアには他の観光客はきません。万事休す。
 はい、こういうときのコツ。逃げたらだめ。今度は力づくで襲われるかもしれません。
「だめですよ」「じゃあ、そこまでよ」「ちょっと、おちついてね」
 日本語でいいのです。もちろん、片言の英語を含めることができればベター。相手も職をフイにしたくはないでしょうから、だいたいは、少しずつ落ち着かせることで切り抜けることはできると思います。・・・それでも行為がとまらない場合は、女性であればなかなか難しいと思いますが、私たちは女装者。そこは、男性の生理がわからないわけではない立場ですから、彼のアソコを触ってあげるのです。ズボンの上からでいいのです。しばらく触って、相手が感じてきだしたら、サッとその場を立って逃げるのです。快感が高まっていて爆発寸前であれば、すぐには追ってきません。これ、究極の脱出法です。
 もっとも、こうならないように、ナンパには乗らないことが大切でしょう。でも、遺跡の係員のていねいな案内には、やはりついていくのではないでしょうか。

 オランダの列車の中でのことも印象的でした。
 夜の9時ごろ。アムステルダム中央駅からスキポール空港駅に向かう2階建て列車の2F。人影もまばら。ひとりで座っていると、男性が、私が座っているボックスにやってきました。半分くらいは「これってナンパかな」と思いつつも半信半疑。・・・でもやはりナンパでした。
 片言の英語で話しかけてきます。私も英語は苦手ですから、片言も片言。だからかえってわかりやすかったのかもしれません。とにかく、彼はイラク人だということでした。ちなみに、オランダはかなり開放的な国で、多くの移民を受け入れています。
 イラクといえば、イランやサウジアラビアに比べれば世俗的要素が大きいとはいえ、イスラム教の国。妻でもない女性がこんなに接近するなんて、国内では考えられないのだと思います。私、ちょっとイタズラ心を起こしてしまいました。電車内だから襲われることはないだろうと。だったら、ちょっと、彼のことを弄んでみようか(嫌な性格ですね)。ツーショットを撮ろうということになって、こんな接近をしてしまいました。見ず知らずの異性が(女性だと疑っていない様子)こんなに接触して、そして、胸元につけているクリスチャンディオールのオーデコロンは、きっと、彼の鼻腔をくすぐり、きっと頭の中は『触りたい』という意識でいっぱいになっていたと思います。でも、触ってきたら「ダメですよ」と彼の手を押し返す。そんなことをくり返していました。
 もちろんそれ以上はなにもなかったですよ。彼も、東洋女性と車内のひとときを楽しんだのですからそれでいいじゃないですか。女装旅行ではこんなアバンチュールもありました。

ベスビオ火山を臨むナポリ湾にて

オランダのユトレヒトという街で。
全く同じニコンのカメラを持っていて、それがきっかけで仲良くなりました

パリ郊外、フォンテンブローの森で。私をギュッと抱いた力は、ちょっと痛かったかな。

男性の2人づれと、しばらく話していました。