留美子のひとり鉄道旅(1)
  青春18きっぷの旅
 SLが走る有名な路線
         大井川鐵道


 最近、鉄道のフリーパスを使ってオトクに旅することに凝っている。きっぷを買うごとに、「あーっ高いなあ」などと思い悩むことなく、どれだけだって列車にのれちゃうのだから、これほど精神にいいものはありません。
 オトクに旅するには、まずは、どういうきっぷが発売されているのかという情報をできるだけ多く手に入れることが肝心です。情報量がものをいうといってもいいかなあ。
 住んでいるところ(私だと東京)では購入できなくて、その当地に行かなければ買えないきっぷがあるんです。だいたいこういったきっぷは、住んでいるところで情報を入手するのが困難な場合が多いので、とにかく工夫していろいろなオトクなきっぷの存在を知ることが大切だと思います。

↑ 青春18きっぷを使ってJRの金谷駅(静岡県)まで行き、そこからは大井川鐵道に乗る(大井川鐵道はJRではないので別料金が必要)
 ひとつ例をあげてみましょう。たとえば「ときわ路パス」。ほとんど通年の土・休日に茨城県内の広いエリアを1日2000円で旅できるきっぷなのですが、これはそのエリア内でなければ購入できないのです。都区内で買おうと思ってもできないし、都区内の駅ではとりたてて宣伝していないため、知らない人もかなりいると思います。
 上野から列車に乗って、まず、茨城エリアの取手駅で降ります。ここから「ときわ路パス」が発売されるので、この駅で買えば、あとはどれだけ乗っても2000円というわけです。帰りは、上野まで乗ったとした場合、取手と上野間の差額を払えばいいのです。もし、あなたが袋田の滝まで行くとすると、普通に乗車券を買うよりは2000円以上トクすることになるでしょう。

←運賃が必要ないので、プチ贅沢で、東海道線の快速アクティーのグリーン車に乗ってみました
 しかしなんといっても、もっともオトクなのは〈青春18きっぷ〉というフリーパスでしょう。春・夏・冬の休み期間にあわせて発売され、11500円で5回(連続でなくてもよく5日分、5人で1日という使い方もできる)使えますから、1日あたりにすると2300円という破格値で全国乗り放題なのです。ただし快速を含む普通列車だけ。特急や急行には乗れません。特急券を買ってもだめです。グリーン席も基本的にはだめなのですが、普通列車のグリーン車の自由席にはグリーン券を買えば乗ることができます。グリーン車の自由席というのは、たとえば、湘南新宿ラインとか東海道線を走っている普通列車につながれています。
 さて、〈青春18きっぷ〉というから高校生までしか買えないと思うなかれ。青春をとりもどすべく、また、いくつになっても青春を謳歌したいと思う中年・熟年のオジサンやオバサンだって普通に買えるのです。というか、半数以上は、こういった年齢層の人たちが使っているというデータもあるそうです。『おとなの青春18きっぷの旅』(学習研究社)というタイトルの情報誌も出ているぐらいですから、スローライフを味わう粋な旅として人気が出てくるかもしれません。

 ちなみに、情報誌には『青春18きっぷの達人』(イカロス出版)というのもあって、今のところ、この2誌が競争しているようです。両誌とも季刊で、内容は似ています。
 青春18きっぷの旅をするためには、時刻表を読みこなすことが肝心。時刻表は大判の方がいいです。小さい判のものだと特急や急行を中心に書かれているため、普通列車を乗りこなす旅には役不足なのです。大判の時刻表は、JTBのものと交通新聞社からでているJR時刻表と2つあるのですが、青春18きっぷの旅をするためには、これは断然、交通新聞社からでているものの方が見やすいです。特急や急行列車は赤い字で書かれていて、これには乗れないので、他の黒い字の列車だけを見ていけばいいからです。

 11500円を奮発し青春18きっぷを買い、まずはその1日分を使っての日帰り旅行です。3月末に長い旅行を考えているため、今回は、疲労度もかねて小手試しとでもいう旅でした。
 日帰りなので早朝から出発する必要があります。さて、東京から静岡に向けて乗る列車はというと、これは、東京を5時20分に出発する列車番号321Mにがぎります。夜行の快速〈ムーンライトながら〉を除けば、静岡まで直通する列車はこれしかありません。乗り換えであればいくらでもありますが、そんなことよりも、321Mには大きな特典があるのです。なんと、JR東海の新型特急の車両を普通列車として使っているのです。特急の東海号やふじかわ号に使っている車両を、快速扱いのムーンライトながら号にも使用するのですが、東京駅に早朝の4時42分着、上りムーンライトながら号の回送代わりとしてなのか、静岡までを普通列車として使用するのです。全車両禁煙なので、煙草を吸わない私にとっては、禁煙車を探さなくてもいいというのもうれしいものです。新型の特急車両ですから、座席はリクライニングの豪華版。静岡までの約3時間、なかなか快適に過ごせました。いくら普通列車とはいっても、通勤電車のロングシートだと、どうも旅する気分にはならないですから。 


金谷駅に停車中の機関車に乗せてもらいました


木でできた肘掛けがすり切れたところも、またレトロ

 1日めの旅を「大井川鐵道のSL乗車」と決めた私は、インターネットで大井川鐵道のサイトにアクセスして、SL乗車は予約が必要だということを知り、さっそくインターネットのメールを使って予約しました。予約番号が送られてくるので、当日、大井川鐵道の金谷駅の窓口できっぷを購入するというシステム。SLは急行扱いであるため、急行料金を含めて、金谷駅から千頭駅まで片道2370円。これだけで青春18きっぷよりは高くなります。しかたがありません。大井川鐵道はJRではないので青春18きっぷは使えないのです。記念乗車券タイプになっているため、手元に残しておくグッズとしてはうれしいものですけれど。
 レトロな車両、蒸気機関車が出す煙の煤が入ってくることを知らないかのような若い女の子グループの席の窓が開けたままで、トンネルに入ってもそのまんま。トンネルに入ったら窓を閉めるなんてことは知らないのだろうなあ。セーターに黒い煤がついてしまいました。ああ、でも、石炭の煙の臭いが懐かしい。その昔、私がまだうんと小さい頃、かすかな記憶として残っているのが、父親に手を引かれて、熊本から大阪まで乗ったSLが牽引する列車です。確か、急行「天草」だったかと思います。当時、特急に乗る人はリッチな人であって、一般の庶民は向かい合わせのクロスシート。通路には、席がとれなかった人が新聞紙を敷いて座っている。そんな懐かしき日本がありました。トンネルに入るとき汽笛がボーッと鳴り、それを合図のごとくに、みんなが窓を閉める。そんなセピア色の記憶が、煙の臭いと座席のレトロな感覚に触れることでよみがえってきました。


車掌さんが奏でるハーモニカの音色もまたレトロな雰囲気


車窓いっぱいに広がる茶畑は、静岡の名産を彷彿とさせる

 大井川鐵道SLの車掌さんは、1人何役もこなします。沿線の案内をするかと思えば、『大井川旅情』のガイドブックの販売員になったり、はたまた、ハーモニカで鉄道唱歌を演奏したり、お世辞にも上手とはいえない歌を披露したり、とにかくサービス満点です。歌い終えたとき、拍手代わりに汽笛がボーッと鳴ったりするなど愛嬌もありました。
 車窓からは、丸く刈りとられた茶畑が広がって見え、静岡がお茶の一大産地であることを再認識させられたりするなど、飛行機の旅では味わえない楽しみが鉄道旅であるし、また、新幹線の旅行でも味わえない醍醐味ではないでしょうか。飛行機の、エアライン会社の趣向を凝らした機内食を楽しむのもひとつの楽しみだけど、車窓いっぱいに広がる景色をながめながら駅弁を広げるのも、また別の楽しみなのかもしれません。どれがいいというのではなく、全部楽しんでやろう。貪欲に「いろいろな旅」を、「女性」として楽しむ。性別違和感を抱いている私のその緩和法なのかもしれません。

 大井川鐵道の終着駅は千頭駅。金谷から1時間半ほどの旅程です。約40qほどの距離を1時間半もかけて走るのですから、新幹線や飛行機の旅が普通になった現代では、ある意味では贅沢な時間の使い方なのかもしれません。新幹線だと10分やそこらで駆け抜ける距離を、煙を吐きながら、シュッシュッポッポ、ボーーッと、力強く走っていくSLに乗るということは、現代人にとっての贅沢で至福なひとときだといったらいいすぎでしょうか。ちなみに、40qの距離だと、JRだと650円。その距離に2370円を支払うのですから、これはかなりの贅沢。
 JRで40q、650円というと、静岡と浜松がそうです。この距離を新幹線のグリーン車に乗と2730円。普通車だと1490円。いやあ、SLのリクライニングもなにもないレトロなオンボロ座席は、新幹線のグリーン車なみの価格なのです。
 青春18きっぷで、料金をうーーんときりつめた旅をしながら、こういうところでは気前よく使う。すてきな旅だと思いませんか。

 「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と謳われた大井川。江戸幕府の安全保障戦略によって、この川に橋をかけることは許されませんでした。
 川の水が増水したときには、彼岸に渡ることができず、川の水が退くまで、こちら側で足止めをくらったといいます。今はもちろん数多くの橋が架けられ、そのときのたいへんさを偲ぶものはなにもありません。
 千頭駅は、大井川も中流域よりは上流に近い部分になるかと思われますが、川はほとんど渇水状態。これだったら、ハイヒールのブーツ姿の私でも、楽々と渡れそうです。
 さてさて残念なのは、千頭駅には、これといった駅弁がありません。なにか名物を食べようと思ったのに・・・・・・ 駅の待合室で、その場で焼いた川魚の塩焼きを売っていたのですが、当地の名物を食べてやろうという主義の私は、今回はちょっとパスしました。

 大井川鐵道では、SLの動態保存だけではなく、他社で走っていた車両を、再塗装をせずにそのままに走らせている、ということでも知られているようです。
 近鉄特急の車両、京阪電鉄特急車両、南海電鉄の急行・特急車両などが走っているのです。
 私は、帰りのSLも予約しておいたのですが、SLの急行料金が要らないのと、リクライニングシートで眠って帰りたいという気持ちもあって、急遽キャンセルして、もとの近鉄用の車両に乗って帰ることにしました。
 東京では考えられないローカル線の人の少なさ。1車両に10人程度しか乗っていません。座席を向かい合わせにして、そして4席を1人じめできるのも、ちょっと大都会の利用率からは考えられません。これだけ乗客が少なければ、運賃も割高にしなければペイしないのも無理はありません。
 千頭駅から金谷駅までのきっぷは、こんどは記念乗車タイプではなく普通のきっぷなのですが、これもまたうれしいレトロきっぷ。なんと硬い紙質のきっぷなのです。そして、鋏できっぷの入鋏をするのです。きっぷに鋏を入れられた経験をするのはどれぐらいぶりなのだろう。20年ぶりかもしれません。大切な記念としていただいてきました。